夫が加害更生プログラムに参加している妻より

夫がプログラムに参加して

  私は現在夫と5歳の娘と3人暮らしをしている、30代のフルタイムワーキングマザーです。2年前に一度夫と別居し、その時に弁護士さんから加害者プログラムの存在を教えて頂き、その後夫が約1年半プログラムに通っています。

  

 私たちは、プログラムが始まるとほぼ同時期から同居していますが、お陰様で大きな事件はなく平和に過ごすことができています。同居に戻る際には、友人にも「加害者プログラムなんかで男が変わるはずはない」と止められましたし、実際にプログラムの内容を見た時には「これをこなすくらいなら、離婚した方が男性にとっては楽なのではないか」と思うくらいの濃い内容に驚きましたが、プログラムの存在を知った夫の参加の意思は固く、それであれば応援しようという気持ちで臨みました。

  

 別居前は、連日のように夫には舌打ちや無視をされ、口論になれば「精神異常者」「給料が安い」「家事能力が低い」とののしられていました。身体的暴力はめったにありませんでしたが、精神的につらく2回目に首を絞められた時には「別居の準備をして、3回目があったら迷わず家を出よう」と決めていました。

 

 当時からフルタイムで働いていた私は、逃げる場所としてはシェルターも実家も選択肢になく、待機児童の多い東京でやっと入った保育園から出るわけにもいきません。家を出ると言えば「精神がおかしい」と言われて「頭のおかしい人は子供を連れていくな」と夫が力づくでも子供を手元に置こうとすることが分かっていたので、自分で部屋を借りてこっそり家を出て、あとの連絡は代理人の弁護士さんに依頼するという方法をとりました。

  正直、とてもお金のかかる方法でしたので、これは経済的に自立して余裕のある女性にしか使えない逃げ方であって、一般的には現実的ではないと実感しました。

  DVにあえば、逃げるか耐えるかしか選択肢がなかった時には、お金のかかる非現実的な逃げ方か、シェルターか、または安全性が低い実家に逃げるくらいしか方法がなかったと考えると、耐えることを選ばずに加害者プログラムで学ぶという選択肢があること自体がすばらしいと思います。

  

 私がこのようにDVを経験してしまった背景には、育った中で暴力が身近にあったことがあります。母から父への日常的な言葉の暴力や身体的暴力を目の当たりにして育ったのです。私自身、子供が泣けば「そんな子は外に追い出せ」「泣き止むまで殴ってしまいなさい」という実母の声の幻聴に悩まされていたので、自分の結婚生活が破たんして実家との距離が縮まることは恐怖でした。 

 私自身も、今回はたまたま被害者の立場に立っただけで、自分もいつでも加害者になり得たのです。このようになった背景を学んで、暴力が身近でない自分、暴力を選ばない自分に成長する必要がありましたので、加害者プログラムに夫が通うことを通して得られる知識は自分育て、子育てに役に立っています。

  

 当時、支配やコントロールに関する知識が浅かったためにこのような危うい状況になってしまっていたので、夫だけでなく自分が学べる今の環境がとてもありがたいのです。また、夫自身も身体的暴力は一度もなく、支配やコントロールをしようという発想も減ってきているように見えます。もちろん、突然それらがなくなるわけではないと思っているので、今後も見守っていきたいと考えています。

 

 宗像さんとメールで簡単にやり取りができることもメリットで、夫の言動に疑問があった時に忘れる前にお伝えすることができます。その内容をもとにプログラムの際に声かけをしてくださり、他のメンバーの学びにつながることであれば共有していただけるので、生の教材として役に立っているのではと思っています。また、何かトラブルがあった時にも相談できる心強さのおかげで、当初あった夫に対する恐怖感は徐々に薄れていきました。もし別居したままでしたら、恐怖感や雪だるま式に膨れ上がっていたことと思いますので、私たちが一緒に生活しながら修正していくことを応援して育ててくれる存在への感謝の大きさは言い表せません。

 

 このプログラムがなかったら私たちは今も一緒に生活できなかったでしょうし、支配について学びきれていない私と二人ぐらしになる娘の心の成長も心配な状況だったことでしょう。まだまだ私自身も学びを必要としていますし、夫もまた同様だと思います。こうした取り組みの存在が広く知られて、結果的に子供たちの世代が救われることを心から願っています。