「私は素直な人になる」

残暑厳しい初秋の週末。

老後の楽しみにと、愛犬と過ごすことができる山のリゾート散策に妻と出かけた帰り道。

運転する車のオーディオからは、<藤井風>」の澄んだ歌声と旋律が流れている。

「何年も前、デビューしたころから好きだった・・・」と妻がつぶやく。

久しぶりにお互いの好みが重なったことに驚き、思わず嬉しくなる。

いつもは高速道路で渋滞にまきこまれるのだが、今日は車の流れもスムーズで気持ちが良い。

後の席で妻と佇む愛犬リオ(ビションフリーゼ:5歳)もバスケットのなかですやすや寝ている。

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5年前、私の暴力行為で妻に怪我をさせてしまってから、二人の間に深い溝ができてしまった。普段、家のなかでは、基本的に妻の傍に近づくこともできない、別居同然の生活が続いている。

妻の好みや趣味もよく理解していなかった。

これまで本当に妻のことを全く見ないで、自分勝手に生きていたのだと慚愧に堪えない。

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妻の優しさのお陰で今も同居は続いている。

加害更生プログラムに参加して5年目。おかげ様で昨年から、二人で一緒に旅をする機会も増えてきた。旅行のときだけは、昔と同じように隣に座ることを許されるのだが、まだ微妙な緊張感がある。

今年の夏は、いつもより長い休暇をとり、妻がずっと夢みていたというスイスのアルプスを旅した。

夜明けの陽光で輝くアルプス。マッターホルンが湖水に映るさまをリアルに体験し、息をのんだ。

思いだすだけで心が洗われる。妻が誘ってくれなければ、一生見ることができない美しい風景だった。

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人生も晩年に近づき、後悔ばかりで過ごすのはもったいない。自分の頑なな態度、暴力性をすべて手放し、生まれ変わろう。

身近にいる「青い鳥」に気付いた今、ようやく古い固定観念や特権意識を捨て、自分自身を変えなくてはならないという決意が生じた。

それでも、まだ一歩一歩だ。

旧い価値観をなかなか手放せず、自己を正当化して逆戻りしそうになる自分を日々叱咤する。

過去そして将来にわたって自分の言動に責任をもてるようになりたい。

そうして、「私はいつも素直である」という新たなセルフトークを自身に語りかける。

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<・・・やがて生死を超えて繋がる 共に手を放す、軽くなる、満ちていく・・・>

藤井風の言葉が胸に沁みて、妻に感謝する。

 

※写真は、この夏に訪ねた「逆さマッターホルン」

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