ひとりでは気づけなかった

僕が加害更生プログラムに参加してからの最大の気づきは、「ひとりでは自分の間違いに気づけない」ということです。

 

 4年半前、すがるような思いでたんとるまいるに入るまで、妻との口論が絶えることはありませんでした。

 口論にならないように気を付けて、口論にならないように我慢して、口論になったら謝って、ひとりで何度も反省し、二度と繰り返さないと誓いっていましあ。でも、日を置かずに再び口論になることの繰り返しでした。

 口論になってしまった原因を自分なりに思い返して、次は同じことを繰り返さないように気を付けていましたが、全く効果がありませんでした。

 ということは、原因は僕ではなく妻にあるのではないかと当時の僕は考えました。

 こっちはこんなに反省して気を付けているのに口論になってしまうのは妻にも問題があるのではないか、という論法です。

 今振り返ると自分の思考の歪みには一切気づけていませんでした。

 

 僕がプログラムに参加してから、すでに4度目の春を迎えました。

 この間、何度も何度もグループで振り返りをしてきましたが、初めの頃はせっかくの気づきのチャンスを活かせていませんでした。

 なぜなら、僕は自分の間違った思考や言動に気づいても自己完結していたからです。

 

 プログラムに参加してから1年が過ぎたころの出来事です。狭い歩道で他人とすれ違う時にぶつかりそうになり、「気をつけろよ」と声を荒らげてしまったという出来事がありました。直後に「またやってしまった」という気持ちになり、たった今起きた出来事を自分なりに振り返りました。

 すると、どうやら僕は、他人を思いやる気持ちが薄く、自分勝手で傲慢、自己中心的な思考があるということに思いが至り、二度と同じ過ちを犯さないようにとひとりで反省していました。

 その結果、自分なりに問題点を洗い出して思考の歪みに気づけたので、グループで振り返りをするほどのことでもないと判断し日常を過ごしていると、また同じようなシチュエーションのときに暴言を繰り返してしまった、ということが何度もありました。

 このときは、たまたま疲れていて心に余裕がなかったからやってしまったとまたひとりで反省しました。 このようなことを何度も繰り返し改善が見られなかったため、試しにこの件に関してグループで振り返りをしてみました。

 すると、仲間からは「自分から問題を起こしにいっているように見えますよ」とか「自分が疲れているとき他人に八つ当たりすることでストレス解消しているのではないですか」というような指摘をいただきました。 僕は「なるほど、言われてみれば正にその通り」と思えたので、改めて自分の思考をたどってみると、確かにトラブルを避けたいのであれば自分が避ければいいのにそれをしていなかった、「僕は他人を責める口実が欲しかったんだ」という思考があったことに気づきました。

 そう、僕は自分の鬱憤を晴らすために他人に八つ当たりするという行動パターンを持っていたのでした。 素直に自分の気持ちを認めると、あぁ、妻にも仕事のストレス、通勤のストレス、妻が僕の言うことを聞いてくれないと言っては八つ当たりをしていたなぁ、と思いました。

 

 この気づきは、自分ひとりでは絶対に得ることができなかったものだと思います。

 自分がこれまで生きてきた経験に基づき、自分の判断で間違いを洗い出し、改善を試みる、今まで何度も繰り返してきた方法に効果が無かったことは、妻との生活で立証済みです。

 それだけ、僕は自分のことが見えていなかったということだと思います。考えてみれば、普段の生活においても僕はこれまで自分の思考に疑問を抱くことはありませんでした。自分なりにしっかり考えて、自分を客観的に見る努力をして、何度も何度も反省しても、妻との口論に終止符を打つことができなかったのは当然だったと言えます。

 僕の言動を客観的に見てアドバイスをしてくれるグループの仲間たちと出会えて本当に良かったと思います。

  この春からも、また、みんなと一緒に学びへの道は続いていきます。

                                           4-8